中村颯希著「神様の定食屋」
あらすじ
元・プログラマーの高坂哲史は両親の死をきっかけに両親が経営していた定食屋「てしおや」を継ぐことになった。けれど、都会でプログラマーとして働いていた哲史に料理のスキルなど皆無。同じく家業を継ぐことになった妹の志穂は料理の専門学校を卒業していて、妹にどやされる毎日。そんなある日、哲史はとある神社に奉られている神様と出会う。その神様にお願いすると、哲史は不思議な体験をすることに。
食を通じて、人の心に触れることになった哲史の成長と、彼を取り巻く変化に胸がじんと熱くなる。
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本書を一言で表すとするなら「作ること、食べることで心を繋ぐことができる」です。
本書「神様の定食屋」は両親が他界してしまったことをきっかけに家業の定食屋である「てしおや」を継ぐことになってしまった兄妹のお話です。
本書には神様が登場します。ちなみにこの神様は一体何の神様なのかは本編の中では明かされていません。シリーズを読み進めていけば明らかになるのかなとも思いましたが、ともかく一巻の時点ではわからずに終わってしまいます。まあそれでも何らストーリーには影響しないのでそこは安心していただいて大丈夫です。
さて、僕が本書の中で一番印象に残っているのは、とある国際結婚を果たした夫婦のエピソードです。愛を伝えることにためらいのない夫とその愛を照れつつも受け入れている夫婦。しかし、彼らはあっさりと死別してしまいます。
そんな夫婦の絆を高坂哲史は生前の夫の料理を再現することで取り持ちます。本書は短編形式で六つのエピソードから構成されているのですが、このお話が個人的には一番ぐっときました。
夫婦の内、奥さんの方は日本人で、あまり積極的に愛を伝えることはしませんでしたた。そこがまた、日本人らしいなと思う部分でもあり、読み進めていく内に「ああ、だからダメなんだよなぁ」と感じる部分でもあります。
伝えたかったことは生きている内に伝えなければならない。それは誰もが頭ではわかっているはずだけれど、実行に移すことができないことでもあります。
だからこそ、二人の気持ちを、思いの橋渡しをするこのエピソードはじんわりと、深く胸の中に染み込んでくるようでした。
いかがでしたでしょうか?興味を持っていただけなら、ぜひ読んでみてください。それではまた、次回お会いしましょう。さようなら。