山本一力著 梅咲きぬ (文春文庫)
あらすじ
江戸老舗料亭「江戸屋」の一人娘玉枝は、幼少の頃より厳しい教育を施されてきた。けれど、玉枝は母・秀弥の背中を見て育った玉枝はあこがれの母の背中に近付くため、必死に日々を送っていた。そんなある日、江戸屋に奇妙な男たちが訪れる。江戸屋の女将・秀弥と玉枝、そして江戸屋で働く面々は、老舗料亭の看板を守るため、ありったけの知恵と気位を見せるのだった。
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老舗というと由緒正しきお店、というイメージが付いてきます。どこか常人を寄せ付けず、気軽に入るにはためらわれる、そんな独特のオーラを持っていますね。
本作の舞台である『江戸屋』もそんな老舗の中のひとつです。
江戸屋は高級料亭であり、そして門前仲町の町人たちにとっては江戸屋はなくてはならない場所です。
それはただ単に、江戸屋が高級料亭だからというだけにとどまりません。江戸屋を仕切る女将・秀弥の存在がことのほか大きいのです。
不景気で人々の心が沈んでいく中にあっても、秀弥と彼女の周りに集まる人々は威勢を忘れませんでした。
そんな秀弥の一人娘の玉枝もまた母の姿を見て、自分の立場を認識します。
そうやって、親子と店の者、町の衆が一丸となって暮らしていく中で、江戸屋にひとつの問題事が持ち上がりました。
本書のテーマのひとつが「親子の愛情」であることは言うまでもないことです。
厳しくもたくましく、凛とした母親の背中を見て育った玉枝は母親とそっくりなしゃんとした人間へと育っていきました。
これは秀弥が母親として、そして江戸屋の主として折に触れて心構えなどを話して聞かせていたこともあります。
ですが、それだけで人間はいい方向へ成長しいないものです。
玉枝の周りには熟達した大人たちがたくさんいたのです。それもまた、玉枝の成長の一因となったのだと思われます。
さて、これは「江戸屋」だからこそそうした人間関係があったのか、それとも秀弥の人柄がその人たちを繋ぎとめたのか。
いずれにせよ、周囲の人間の影響は多分にしてあったのだと思います。
そうして、いいことも悪いことも乗り越えて玉枝は「江戸屋」の女将である秀弥を襲名することになったのでした。
もし、自分が玉枝の立場だったらどうだっただろうと考えます。
もしかすると、玉枝のように素直に自分の将来を受け入れ、それに向かって邁進するというようなことはできなかったかもしれません。
僕には老舗料亭の後を継ぐという器量はないんだろうな、と思いました。
それだけに、幼いながらの玉枝の覚悟と周囲の人々、そして母である秀弥の愛情を感じることができる内容になっていたのではないかと思います。
いかがでしたでしょうか? もし気になったという人がいましたら読んでみてください。
それでは、また次回お会いしましょう。
さようなら。