川口俊和著『コーヒーが覚めないうちに』
あらすじ
地下に店を構える喫茶店『フニクリフニクラ』。その店にはとあるひとつの噂があった。いわく、その店のある席に座ってコーヒーを飲むと、過去に戻れるらしい。嘘か真か定かではないそんな噂を頼りに、今日も一人のお客様が姿を現す。過去に戻りたいと願うお客様のために、従業員の数はコーヒーを入れるのだった。「コーヒーが冷めないうちに」
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過去には戻れない。時間は不可逆である。
相対性理論によれば、未来に行く事は可能であるけれど、過去に戻ることは不可能だされています。それこそ、ドラえもんの世界にでもならなければ。
ところで、この『コーヒーが冷めないうちに』においては、過去に戻ることが可能であるとされています。しかし、そこにはうんざりするほど多くの制約があり、正直過去に戻るメリットより面倒臭さが目立つのではないでしょうか。
特に目立つのが、「過去に戻っても現在は変えられない」というルールです。これでは、過去に戻るメリットは皆無といっていいのではないかと。
そこまでして、過去に戻りたい人なんて一握りだと僕は思います。
それでも、過去に戻りたいと願う人々がやってくるのが喫茶店『フニクリフニクラ』です。
その店のとある席に座ると、過去に戻ることができるのだといいます。しかし可能な限り努力してももはやどうにもならず、取り返しの付かない事態を取り返すことは不可能。
過去は変えられず、現在や未来はさして大きな変化はない。
そんな理屈はわかっている。わかっているけれど、何もせずにはいられないのが『人間』という生き物なのでしょう。
登場人物たちは、そうした一見すると無意味にも思えるルールがあることは知っています。その上で過去に戻ることにしました。
不合理とも思える行動を取る彼女たち。しかし、何も変えられずに戻って来てしまいます。
表層上だけを見るなら、ですが。
過去に戻ったことで、心の変化、考え方の変化があったようです。
前向きに、生きることができるようになった。その事実だけでも、全く無意味ということはなかったのではないでしょうか。
大抵の時間遡行作品は、過去を変え、現在と未来を変えることが多いですが(まさしくドラえもんなどはその例)この作品に関してはそれはありません。
一度起こったことは変えれないし、結果は変わらない。
それでも、自分の受け止め方、考え方次第で、これからいくらでも明るい未来にしていける。そう思わせてくれるような作品でした。
今回はここまでです。もし興味があるという人がいましたら、ぜひ読んでみてください。
それでは、また次回お会いしましょう。さようなら。