こんにちはこんばんは。プラスアルファでございます。
というわけで、今回も一冊読み終えましたのでご紹介を。
今回ご紹介するのはこちら。
谷崎潤一郎『刺青・秘密』です。
本作は『刺青』『少年』『幇間』『秘密』『異端者の悲しみ』『二人の稚児』『母を恋うる記』の全七編からなる短編、中編集です。
ここでは主に、表題作である『刺青』について述べていきたいと思います。
時は江戸。刺青を掘ることを生業としている男がいました。その名は清吉。
彼は刺青を掘りながら、その痛み、苦しみに悶絶する人々の顔や態度を見ていることが好きで、まさしく刺青を掘ることは清吉にとっては天職のようなものでした。
そんな清吉の前に、一人のうら若き美女が現れます。彼女に一目惚れをした清吉は、何としても彼女に刺青を掘ろうと決め、半ば強引に彼女を家に上げてしまいます。
睡眠薬を飲ませ、娘を眠らせることに成功した清吉は娘の背中に大きな、蝶を思わせる美しい刺青を掘ってしまいます。もちろん眠っている間のことですので、娘には痛みも苦しみもありません。
やがて娘が目を覚ますと、その刺青に対してお礼を言い、清吉の許を去ってしまいます。
僕はこの『刺青』を読んで、まず不思議に思った事が一つあります。なぜ清吉は娘の足を見て、以前に会った事のある娘だと直感で来たのでしょう?というかよく足なんて覚えていたものだ、と。
これについては、清吉の生業が関係しているのだと思いました。
清吉は彫り物をすることを商売にしていますので、人の肌を見ることに関してはその辺の人よりもだいぶ見慣れていたでしょう。もちろん、中には足に刺青を、という人もいたのだと推測されます。
だから、娘の足の特徴を瞬時に見極め、覚えていることができた。これは清吉が娘に一目惚れをしていたということも、彼の記憶を助けるのに大いに役立ったのだと思います。
次に、なぜ勝手に刺青を彫ったのか。
当然、清吉も商売人ですから、金をもらわないと刺青を彫らなかったでしょう。しかし娘は清吉にとって特別な存在。なら、ただで刺青を彫ったとしても不思議ではありません。
もちろん、この前提として娘の依頼、または承諾があったら、というのはありますが。
この『刺青』では、娘は刺青を彫ってくれ、などとは言いません。それどころか、一刻も早く清吉の許を離れたいと思っているような描写がありました。
それでも、清吉は娘を無理矢理に自宅にあげ、知り合いのオランダ医から譲り受けた睡眠薬でもって娘を眠らせてしまいます。そして、娘の背中に勝手に刺青を彫ってしまうのです。
ここまでの流れでも、現代人の僕には既に狂気じみているな、と思いました。江戸という時代背景を考えると、男性が刺青をするのはおそらくファッション性の高い、言ってしまえば「楽しいこと」だったのでしょう。しかし女性が刺青をするのは、果たしてどんなふうに受け止められていたのでしょうか?
けれど、ラストの娘の反応は僕の予想外のものでした。背中に彫られた大きな蝶のような大きな刺青を褒められ、清吉にお礼を言って立ち去ります。この受け止め方には様々な見方ができるでしょう。
一つは、娘は刺青を入れるつもりはなかったが、清吉が逆上することを恐れた、という見方です。現代人たる僕の感覚からすれば、これが一番受け入れやすいのですが、実際に娘がどう思ったのかはわかりません。
続いて、刺青を入れてみたいと常々思っていたがが、お金や他の都合で入れることができないでいた。これなら、娘の反応も納得です。
他にも、様々な捉え方ができるのではないかと思っています。折に触れて考えていきたいですね。
というわけで、今回はここまでにしたいと思います。この記事を読んで、興味を持ってもらえたという方がいましたら、下のAmazonリンクから購入してみてください。
それではまた、次回お会いしましょう。さよなら。