テクノロジーの発達は僕達に様々な恩恵をもたらしてくれます。
事故で失った手足の代わり。死の淵に立った両親の救済。
医療の分野だけに限らず、僕達の生活のあらゆる場面でそれらは大きな役割を果たしています。
そんな僕達人類の暮らしにはなくてはならないものになってきました。
今回ご紹介するのは、そんなテクノロジーが行き着く極地である不死(イモータル)の研究に情熱を捧げる研究者達を負ったドキュメントです。
それがこちら。
マーク・オコネル「トランスヒューマニズム」です。
記者であるマークが〝トランスヒューマニスト〟と呼ばれる人達の下へ赴き、その研究の何たるか、行き着く先を聞いて回るという内容です。
基本的にはマークの一人称視点で一風変わった研究者の考え方、研究内容などが語られるので、小説感覚で読んでみるのもいいかもしれません。
冷凍保存、意識を機械の体へとインストールし直すなど、あらゆる方法論、アプローチで永遠の生、つまり不死を実現するために日夜研究に没頭するトランスヒューマニスト達。
おそらく、普通の生活を営んでいる僕達からしたら、彼らはだいぶ変わり者に見えるでしょう。
人生は死という絶対的に避けようのない終点があるからこそ、そこまでの道のりが輝かしいものになるというのは、多数の人が賛同していただけると思います。
しかし彼らはその死を克服するべきもの、人類が抱えた欠陥だと考え、そして治療可能な病だと考えています。
死は絶対的に僕達の前にどうしようもなく横たわる暗い影ではなく、その足下を照らす事は可能であり、もっと言うのなら避ける事もできるのだというのです。
トランスヒューマニストのほとんどは死に対してある種の嫌悪感を持っています。
その嫌悪感から、彼らは不死の妙薬を探して日夜励んでいるのです。
その一つの方法として、本書の中では人体冷凍保存が扱われています。
簡単に言うと、人の体をマグロを冷凍するかのように保存して、未来の技術を使ってその人が持っていた病気などが治療可能になる可能性に賭けるという方法です。
賭け、と言った通り、未来に行ったからといって絶対に治療可能になるとは限りません。もしかしたら、まだまだ先の話だと目を覚ましてから言われる可能性もあります。
それでも彼らは一縷の望みに賭けて自らの肉体を冷凍保存します。
それはさながらロバート・A・ハインラインの「夏への扉」を連想させますね(笑)。
ちなみに資金の多寡で全身を冷凍するか首から上だけを冷凍するかが変わってくるらしいです。結構ゾッとする話ですね。
そして、もっとゾッとするのはサイボーグ化を研究している人達です。
こちらは未来に期待をする、というスタンスではなく、今の自分達でどうにかする、というスタンスなのだと思いました。
こちらも、ざっくりと簡単に言うとロボットの体と脳に自分の意識をインストールするというものです。
…何言ってんだ?という気もしますが、彼らは真面目にその方法を研究しているのですから始末に負えません。
研究者いわく「人の体に閉じ込められた私達はもっと完璧な体を獲得しなくてはならない」そうです。
そのために、彼らは健康を保ち、研究を重ねているのです。それもこれも、不死を体現するために。
–と、いかがでしたでしょうか?読み物としてももちろん面白く、なおかつ全てが事実だというのですから驚きです。
本当に不死が実るのかは定かではありませんがしかしそうなった場合は我々は一体どうなってしまうのか、ドキドキですね。
上記に紹介したアプローチ以外にもたくさんのユニークな研究がありますので、ぜひ読んでみてください。それではっ。