マイケル・サンデル著『それをお金で買いますか? 市場主義経済の限界』
概要
我々の生活の中に、市場主義というイデオロギーは凄まじい速度で、根っこの深い部分まで浸透しつつある。市場主義は正しく、公平で、間違いなく適用されれば、人々の生活に多大な恩恵を授けてくれる。しかし、一旦間違った見方をし、公平さを欠き、物事の神聖を忘れてしまえば、反対に市場主義は腐敗と悪辣な変化の源泉となってしまう。本書『それをお金でかいますか? 市場主義経済の限界』ではまさしくそうした問題を取り上げ、お金にまつわる様々な思考を深め、共有していく事になる一冊。
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マイケル・サンデル教授と言えば前著『これからの正義の話をしよう』で、日本でも一躍有名になりました。
『正義』というのは耳慣れた言葉だと思います。けれど、その本質の部分について不覚考えた事はなかったのではないでしょうか?前著ではその部分にフォーカスし、全読者が考えるきっかけになった事だと思います。
さて、本書はそんなサンデル教授の二冊目の著作であり、これもまた『市場主義』という我々の生活の中でも大きな役割を担っているイデオロギーについて深く切り込んでいく本となっています。
市場主義とはすなわち、経済活動全般を指して使われる言葉だと思って頂ければいいと思います。
リンゴを買う、車を買う、家を買う、本を売る、ハウツーを売る、ライブに行く。今やお金とネット環境さえあれば企業、個人を問わず、自営業か否かにも関わらず、何かを売ったり買ったりすることが容易な時代です。
営利、非営利に関わらず、もののやりとりにお金を絡めることはもはや自然な行動と言えるでしょう。
けれども、本書の中でサンデル教授はそうした現状にこそ、警鐘を鳴らしています。
本書『それをお金で買いますか?』の日本語訳版は2012年に発売されました。けれど、内容は決して古臭いものではなく、見事に物事の芯を突いているのだと思います。
一つの例として、野球観戦が挙げられていました。
その昔、野球観戦は富裕層、労働者を問わずあらゆる階級の人々が混じり合っていたそうです。
しかし、近年の野球観戦ではスカイボックスと呼ばれるVIP席が作られるようになり、そこで多額のお金を支払った富裕層は静かにゆったりと選手のプレイを見る事ができるようになりました。
その一事を取っても、経済的な格差というものの凄味を知る事ができると思います。
そうした、経済的な隔たりが、今やあちらこちらで見て取れるようになってきました。
お金を多く支払った人は少ない額の人より良質なサービスを受けらる。しかし逆にお金のない人は我慢を強いられる。
こうした隔たりが、人と人との繋がりを薄くしてしまうのだと、サンデル教授は言います。
僕は、そんなことを考えても見ませんでした。野球に限らずVIP席というのはあってあたり前のものだと思っていたからです。
他にも、サンデル教授は本書の中で様々な事例を紹介し、その一つ一つに自らの見解を述べられています。
前著と合わせて読むことで、現状の認識に対して疑問を持ち、世の中を眺めることができるようになるのではないでしょうか?
それでは、今回はここまでにしたいと思います。また次回お会いしましょう。
さようなら。