プラスアルファの本棚

僕の好きな事を勝手気ままに紹介します!youtueもやってます!


スポンサードリンク

【仮面病棟】恐怖と秘密が支配する、肌がひりつく医療ミステリ。

知念実希人著『仮面病棟』

 

あらすじ

新人医師、速水秀悟はある日、先輩の頼みで当直医師の当番を交代する事になった。入院患者の数は多いが、みな安定しており、一晩だけ急変患者が出た時のために待機しているだけの、はっきり言って楽な仕事のはずだった。けれど、速水が当直に出向いたその晩、テレビのニュース番組でコンビニ強盗が発生した事を知る。更に悪い事に、その強盗犯が速水の当直の日にたまたま彼が務める病院へと押し入って来て、拉致した女性を治療しろと言ってきた。その事をきっかけに、事件はただの強盗事件から思わぬ方向へと向かっていく。

 

 

この作品は本格ミステリでありながら、その実はどうしようもない不条理な事実を突き付けてくる不条理作品であるとも言えると思います。

 

それというのも、本書『仮面病棟』には様々な〝仮面〟を付けた登場人物が存在します。本書の舞台、田所病院を運営する田所院長。彼とともに働く東野と佐々木の二人のナース。ピエロのマスクを被ったコンビニ強盗犯。強盗犯に拉致された女子大生。

 

各々、他人には気軽に話す事の出来ない秘密を抱え、それを覆い隠す様々な仮面を付けています。その中には、犯罪に類するものもあり、コンビニ強盗犯の立て籠りという状況にあっても、その秘密が暴露される事を恐れ、右往左往する場面はかなり滑稽に映りました。そんな事をするくらいなら、最初からやらなければいいのに、と。

 

しかし、ここではやはり、人の心のままならなさと言いますか、不条理な部分といいますか、一言では言い表せない心境が判明していきます。

 

それらが判明する度に、なぜこうも人とは嘘を嘘で塗り固められるのか、二重にも三重にも嘘を纏えるのだろうかと困惑しました。

 

この作品において、田所病院に立て籠もった犯人というのは持ちろん犯罪者です。しかし、それと同時にある種の被害者でもあるな、と読み進めていく内に思えてきました。いわゆる、男の情というものを利用された形になっていたからです。

 

もちろん『仮面病棟』は本格ミステリですから、人が死にます。もしかすると、目を覆いたくなるような彼らの秘密に不快感を覚える人もいるかもしれません。

 

しかし、実際に起こり得そうな事態と人の複雑な心理を見事に描いた作品だと思います。人はそれほど時間をかけずに簡単に変われるし、状況が絶望的であっても何とでもなるものだとも思えるだろうと思います。

 

そして、本書の主人公は当直医の速水秀悟であり、読者のほとんどは彼に感情移入を市ながら読み進めていくことだろうと思います。

 

でも、そこで一つ注意していただきたいのが、コンビニ強盗犯のピエロです。彼もまた、ある意味では本書の主人公と言えるのではないかと思います。

 

というわけで、今回はここまでにしたいと思います。また次回お会いしましょう。

 

さよなら。

 

 

仮面病棟 (実業之日本社文庫)


スポンサードリンク