須賀しのぶ著『革命前夜』
あらすじ
昭和が終わりを告げ、日本では平成元年が始まろうとしていた。この年、日本からドイツの都市ドレスデンへと留学を果たした眞山柊史はそこで様々個性を持つ音楽家たちと出会う。自身もピアノの奏者としてドレスデンの学校で指導を受ける傍ら、ドイツという国が持つ外側からではわからなかった問題に次々とぶつかっていく。その中において、国民感情の一端に触れた柊史は次第にその国の、そして歴史のうねりの中に飲み込まれていく。この国では、密告するか密告されるかの二つに一つしかない。誰を敵として、誰を味方とするのか、その境界線はどこに置くのか―。
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本書の舞台は、ドイツの都市ドレスデンです。ドレスデンといえば、詳しくない人でも音楽が有名だと言うのは聞いた事があると思います。
僕もそれほど詳しいわけではないですが、楽団があるという話は何となく聞いた事があるような気がします。
さて、舞台はドイツ。とはいっても、本書の中のドイツは西側と東側とでほとんど真っ二つに分かれている状態です。
当時のドイツ情勢について、僕はほとんど知りませんでした。なので、実際にこのような事態に陥っていたのか、確信を持ってはいませんでしたが、ドイツといえば社会主義国家というイメージが付き纏います。
ヒトラー総統(本書の舞台になった年は既に存在しませんが)やナチス党が歴史の負の側面として挙げられるかと思います。この『革命前夜』においても、ナチスの存在は割と大きいものだと感じました。
本書の中で、ドイツはほぼ西側と東側に分かれています。そして、西側は民主的かつ資本主義的な政策をしており、東側は社会主義的な政策を実施していたりと、同じ国内であるはずにもかかわらず、全く違う毛色がありました。
主人公の眞山柊史は東側へと留学します。そこには、バッハなど歴史的に高名な音楽家にゆかりの地があったり、音楽家として著名な人物がいたりと、音楽を志す人間にとって非常に魅力的な部分が多々ありました。
しかし、ドイツの外側である日本から渡独した柊史は留学して初めて、ドイツが抱える大きな闇というものを知りました。
現実にも、外側から見れば華やかだけれど、内側から見た時に膿を孕んでいるという事は多々あるかと思います。
本書の中には多くの専門用語が飛び交いますが、その中でも特に印象的だったのは『シュタージ』という言葉でしょう。
僕たち現代の日本人(そして当時の日本人にも)おそらく馴染みのない言葉だろうかとは思います。
シュタージとは、本書によれば密告者あるいは被密告者を処罰する立場にあるもののようです。
そう。本書に登場するドレスデンは密告者または被密告者の二つの立場に分かれているのです。そして、社会主義という強制力の強さと抱える問題の大きさに、柊史は心を繊細な若者である柊史は心を搔き乱されていきます。
もし僕が柊史の立場だったら、どうするだろう?そんな事を考えながら、読み進めていました。そしておそらくは、彼のように立ち振る舞う事ができなかったでしょう。
常に監視の目を気にして、心をすり減らし、日本に逃げ帰っていたかもしれません。それくらい、読者という立場にあってひりひりとした感覚を味わいました。
本書『革命前夜』はベルリンの壁崩壊という歴史上においても時の話題をかっさらっていったあの大事件を迎えて幕を閉じます。
当時ニュースで見て感じた事を思い出しながら読み進めていくのもいいかもしれませんね。
それでは、今回はここまでにしたいと思います。また次回、お会いしましょう。
さよなら。