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【書評】決して諦めることなく、大きな力に抗った少女。ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』

こんにちはこんばんは。プラスアルファでございます。

 

今回も僕が読んだ本のご紹介をさせていただきたく。

 

今回ご紹介するのはこちら。

 

新潮文庫より、ハリエット・アン・ジェイコブズ著『ある奴隷少女に起こった出来事』です。

 

今から150年ほど前に実際にあったアメリカの奴隷制度と、そんな奴隷制度がひとりの少女をどれほど残虐かつ無慈悲に苦しめていたのかを手記風に語ったノンフィクションです。

 

このお話は全て実際のできごとを主人公のリンダ・ブレンドの視点を通して、一人称緒視点で語られています。故に当時リンダが何を思ったのか、どう感じたのかが鮮明に伝わってくるというものです。

 

ちなみにリンダ・ブレンドとは作者のハリエット・アン・ジェイコブズの仮名です。当時の状況、時世を考慮し、ハリエットが友人や知り合いに迷惑をかけない様にするために、物語中の登場人物は全て仮名で示されています。

 

時は150年前のアメリカ、ノースカロライナ州南部。ここでは白人至上主義の製作が取られていました。

 

奴隷制度もそのひとつで黒人は例外を除いてそのほとんどが奴隷として家畜のような生活を強いられていました。

 

そんな中、リンダ・ブレンドは15歳までの期間を医師のフリント氏の奴隷として過ごしました。

 

フリント氏は医師でありながら残虐非道。黒人奴隷としては美しく可愛らしかったリンダに何度も言い寄りますが、リンダは字が読めないなどと言って何とかかわしていました。

 

そうしていると、フリント氏の奥様であるフリント夫人がいい顔をするはずがありません。段々とリンダへ嫌がらせをするようになります。

 

それでも、まだ最初の内は何とか耐えていました。しかし、フリント氏は段々と狡猾になっていきます。リンダの貞操を奪おうとあの手この手で言い寄って来るのです。時には人に向けるようなものではない卑猥な言葉も浴びせられたそうです。

 

さて、このままではやがてフリント氏の毒牙にかかってしまうのは時間の問題でしょう。リンダは考えた上で、ハンズ氏の下へと走り、彼と肉体関係を持ちます。

 

どうしてフリント氏ではなくハンズ氏だったのか。その理由としては、医師の下から逃げ出したかったというのがあります。

 

フリント氏が自分ではなく他の白人の紳士とリンダが肉体関係を持ったと知ったら、怒りに任せて自分を手放すかもしれない。そう考えたのでした。

 

フリント氏よりハンズ氏の方が信頼できると彼女は思ったわけですね。

 

しかしそうはいきませんでした。フリント氏は彼女を手放すことはなく、やがてリンダはハンズ氏との間の子供を出産します。

 

この子供を逃がすために、リンダは命からがらフリント氏のもとを脱走します。ハンズ氏や他の友人、知り合い、祖母の力を借りてフリント氏を騙し、何とか子供をハンズ氏のもとへと買い取る作戦を成功させたリンダ。

 

しかしそこから、つらく苦しい7年間が始まります。

 

リンダの逃亡は一部の人にしか知られていませんでした。リンダは祖母の家の立ち上がる事も寝返りを打つこともままならない屋根裏に潜み、そこでじっと事態が好転するのを待ちます。

 

7年の歳月の後、リンダはようやくノースカロライナ南部を脱出。捕らえられる心配の少ない北部へと移住しました。

 

その後、ハンズ氏は州知事選に当選します。ここで、彼が法律を変えて奴隷制を廃止するのだと僕は思いました。そうしたらリンダだけではなく、他の苦しく哀れな奴隷も解放することができ、ハンズ氏は一躍ヒーローとなります。

 

けれど、そう全てがうまくは生きませんでした。結果的に言えば、リンダの身柄は彼女の友人が買い取る形で自由を手に入れます。

 

実に後味の悪い終わり方だと言わざるを得ないでしょう。しかし、これは実際にあったことで、この結末は事実なのです。どこまでいっても奴隷制からは逃れられず、しかし暖かな人間関係に恵まれたリンダ。その後幸せに暮らしたということで、結果はどうあれよかったと思いました。

 

文体は極めて淡々としたもので、元奴隷であるリンダは読み書きが多少できる程度で文章を書くのはあまり得意ではなかったらしいです。加えて訳者である堀越ゆき氏も普段は営業職のサラリーマン(サラリーウーマン?)ですので、こちらも文章を作る、英語を翻訳するといったことは本書が初めてのことらしいです。

 

けれど、文章全体に当時リンダが感じたと思われる哀愁、悲しみ、嘆きが感じられ、その中でも特にフリント氏の卑しさ、恐ろしさは読んでいて十分に伝わってくるのでした。

 

何より、そんな絶望の中でも我が子という光を得て、その光を守るために奮闘するリンダの姿に感動することは間違いないと思います。

 

最期に、これはノンフィクション。つまり実際にあった出来事です。奴隷制の悲しさ、人はルールの枠に外れた人間を前にするとどれほどでも残虐になれる生き物だということを、本書は教えてくれます。文明人、法治国家の民として、こうした制度や行為は許してはならないし、繰り返してはダメだと思いました。

 

というわけで、いかがでしたでしょうか?出だしから現代日本人である僕たちにはかなりショッキングな内容ですので、その覚悟をした上で興味のある人は読んでみてください。

 

それではまたお会いしましょう。さよなら。


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